人材育成で知っておきたい若手エンジニアの5つの壁と傾聴の効果

「せっかく採用したのに、3年以内に辞めてしまう」これは今、多くのIT企業が抱えている共通の悩みですよね。
実際、厚生労働省の調査※1でも、新卒入社から3年以内に離職する人は3割を超えており、情報通信業でも毎年ほぼ同じ傾向※2が続いているようです。
採用や人材育成にはコストも手間もかかりますし、だからこそ、「どう育てて、どう定着してもらうか」が、これからの人事や経営の要になってきますよね。
参考:
※1 厚生労働省「新規学校卒業就職者の在職期間別離職状況」R.3
※2 厚生労働省「新規大卒就職者の産業分類別 就職後3年以内の離職率の推移」
- 入社3年目以内の若手の早期退職に悩んでいる
- 優秀な中堅層の離職により世代交代がうまくいかない
- 社員のスキルアップ意欲が低い
- 1on1を導入しても「本音を聞けていない」と感じる
なんと、実際にChatwork社の調査※3では、「上司との面談で本音を話せる」と答えた人は、わずか16.6%。
多くの若手が、自分の悩みを誰にも言えずに、「離職」や「静かな退職※4」に転じてしまうといった傾向も…。これって、どちらにとっても不幸ですよね。
参考:
※3 Chatwork株式会社 「「上司・部下のコミュニケーション」に関するアンケート調査」2023年
※4 静かな退職とは:従業員が必要最低限の業務のみを行い、仕事への熱意や関与を示さない状態を指す
そこで今回は、「若手エンジニアの悩み」と少し向き合ってみたいと思います。
私たちFeepsがこれまで研修やキャリア支援を通して出会ってきたリアルなエンジニアの声をもとに、若手が直面する「5つの壁」としてまとめてみました。
くわえて、その解決策の一つである「正しく傾聴すること」が、なぜ組織にとっての“希望”になるのかを、お伝えしたいと思います。日々の人材育成にお役立ていただける部分があれば幸いです。
- 若手エンジニアがつまずく”目的の喪失”などの5つの壁を知る
- 「正しい傾聴」の効果は組織のレジリエンス(回復力)を高めるなど4つ
- “聞く” “聴く”” 訊く”のバランスの重要性
- 1on1など会話構成の黄金比は、7:2:1 の法則
人材育成で見えた若手エンジニアがつまずく5つの壁
- スキルと自信のギャップがもたらす成長停滞
- 具体的なキャリアパスが描けないことによる将来への不安
- 心理的安全性の欠如がもたらす孤立感
- ミッションとの接点不足による業務の意義喪失
- ワークライフバランスが崩れることによるメンタル不調
1.スキルと自信のギャップがもたらす成長停滞
リアルな声

「プログラミングの理解が難しい。私はこの業界で通用するのだろうか。エンジニアには向いていないかもしれない」



「評価されていないと感じる」
ある調査※5では社会人2〜4年目の4割以上が「自分のスキルに不安を感じる」と答えています。
参考:
※5ラーニングイノベーション総合研究所「若手社員の意識調査(社会人2~4年目の直面する壁 自分の成長とスキル編)」2022年7月
くわえて、上司から具体的なフィードバックや期待の声をもらえなかったり、褒められた経験が少ないと感じる方も多く、そんな状態では、自信を失うのも無理はありません。
「この先どうしよう?」という不安をなくすには、人材育成でこの先のステップアップを少しでも見せてあげることが大切だと考えています。
2.具体的なキャリアパスが描けないことによる将来への不安
リアルな声



「このまま今の会社でいいのだろうか」



「どのようなキャリアを目指せば良いのかわからない」



「目の前の業務に追われてしまってこの先が考えられない」
こちらは、キャリアコンサルティングで多く寄せられる声です。この問題は、以下が要因だと考えています。
- 社内にロールモデルや明確な育成方針が示されていない
- キャリアについて相談する相手がいない
- 現場での業務内容と時間に縛られてしまう
3.心理的安全性の欠如がもたらす孤立感
リアルな声



「いつも忙しそうで声をかけられない」



「質問しづらい雰囲気がある」



「何か発言したら反論されて、私の意見を聞き入れてもらえない」



「すべて評価に関わると思うと安心して話せない」
「助けて」と言い出せない若手ほど、気づかぬうちに孤立していきます。たとえ1on1の時間があっても、相談しても意味がないと感じてしまえば、それはただの“業務報告の時間”になってしまいます。
さらに、以下のような要因が重なることで、その傾向は強まります。
特にSES業態では、こうした「上司と現場の距離」が障壁になりやすく、日々のフォローが難しいですよね。結果として、「誰にも頼れない」「この環境では成長できない」と感じる若手が増えてしまう結果に…。
4. ミッションとの接点不足による業務の意義喪失
リアルな声



「なぜこの仕事をしているのかわからない」



「会社にどう貢献できているのか実感が湧かない」



「この仕事がどう自分にメリットがあるのかピンとこない」



「会社からやれって言われたから給与の為にやっている」
若い世代は時代背景も影響して、「多様性」「タイパ(時間対効果)・コスパ(費用対効果)」を重視する傾向があります。「これをすることにどんな価値があるのか」と目的意識を強く求める世代です。
やりがいがない仕事には、情熱も責任感も芽生えません。結果、次のリーダーが育ちにくくなっていくことに繋がってしまいます。
5. ワークライフバランスが崩れることによるメンタル不調
リアルな声



「慣れない仕事で求められることが多く土日も休まらない」



「仕事から帰ってきたら疲労感で何も手につかない」



「わからなかったことが多く、業後でのキャッチアップが間に合わない」
エンジニアって、現場で即戦力になることが求められる一方で、常に新しい技術を学び続けなくてはいけない仕事でもあります。
その中でプライベートの時間を削り対応していると、心と体のバランスが崩れていきます。
実際、厚労省の調査※5では、情報通信業の約3割以上の事業所で、1か月以上のメンタル休職や退職が発生しています。
参考:
厚生労働省 「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」の概況 R6.7.25
そうならないために「ストレス発散をしましょう」と声掛けするのは簡単ですが、それが叶えられない状況だったり、具体的にどうすればよいのか漠然としている人も多いのが現状です。
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これら5つの壁について、多くの経営者・人事担当者は「そうだろうな」と予想できたのではないでしょうか。しかし、これらリアルな悩みがどれだけ”社内”で話されているか、そこに着目していただきたいと思います。
実際には、現場のこうした本音って、なかなか経営陣のところまで上がってこないんですよね。
じゃあ、どうすればいいのか?そのカギは「正しい傾聴」にあると、考えています!
ただ聞くだけじゃなく、「ちゃんと聴く」。この姿勢を組織全体に根づかせていくことが、実は人材定着や成長につながる近道だと考えています。
組織全体の風向きが変わる!正しい傾聴がもたらす4つの効果
IT業界って、つい「スキル重視」になりがちですよね。プログラミング言語、フレームワーク、資格、経験年数……
でも、いくら技術力が高くても、
人と一緒に働く以上、欠かせないのが“コミュニケーション力”です。
特にエンジニアの働き方って特殊で、案件ごとにチームが変わったり、リモートで距離ができたり、SESなどで社外に常駐するケースも多いですよね。
そんな環境だからこそ――
実は、「傾聴力」がものすごく効いてくるんです!
- 本音で話せる信頼関係を築ける効果
- 会話が増え、仕事のスピードが向上する効果
- 社員のやる気と成長を引き出す効果
- 組織に活気と新しいアイデアをが生れる効果
本音で話せる信頼関係を築ける効果
「この人には、ちゃんと話せる」
そう思える相手っていますか?
信頼関係って、一度の会話でできるものではありませんよね。
でも、日頃から相手の話に耳を傾けていると、
少しずつ、でも確実に、安心できる関係が育っていきます。
傾聴のスキルを持つ上司がいると、部下の心理的安全性もぐっと高まり、
ハラスメントの予防にもつながるという調査結果もあるようです。
話せる空気があるからこそ、問題提起やアイデアが自然と出てくるようになる――
それが、チームの風通しをよくしてくれます。
会話が増え、仕事のスピードが向上する効果
「なんでこう思ったのかまで、ちゃんと聞いてくれる」
「意図まで汲んでくれた」
こんなコミュニケーションができていると、仕事のやり取りもスムーズになります。単なる“結論”だけじゃなく、“背景”や“理由”まで共有できることで、行き違いがぐっと減るんです。
やり直しや調整が減れば、その分スピードもアップ。結果として、生産性向上にもつながるというのは意外かもしれませんが、実はかなり有効的な方法です。
社員のやる気と成長を引き出す効果
「自分の話をちゃんと聞いてもらえた」
この経験って、それだけで気持ちが前向きになりますよね。
傾聴されることで、「自分の考えが受け止められた」と感じる。それだけで、人は変わるきっかけをつかみます。
そして、相手の話を聴くうちに「自分はどう感じた?」「どこが得意なんだろう?」と、自分への理解も深まっていきます。
この“気づきの連鎖”が、自律的に学び続ける姿勢を育て、IT業界において不可欠な「学び続ける力」に変わっていきます。そこに人材育成でもしっかりサポートしてあげると、「会社が応援してくれてる」と実感できて、もっと頑張ろうって気持ちになります。お互いにいい循環が生まれていきます。
組織に活気と新しいアイデアをが生れる効果
傾聴が根づく組織には、いろんな声が自然と集まります。
年齢も立場も背景も違う人たちの意見を受け止める風土は、企業にとっての「イノベーションの種」。
ベテラン社員の経験が後輩に自然と伝わり、新しい技術にも挑戦しやすい。
そんな循環ができてくると、組織全体が柔らかく、しなやかになっていくと考えています。
人間関係の悪化は、離職理由の上位。だからこそ、傾聴による“信頼ベースの職場づくり”は、長く働ける環境の基盤になります。
話を相手目線で聞けていますか?あなたの傾聴力診断
傾聴力を測る12項目をチェック!今のあなたの実力は?
それではここで、あなたの傾聴力レベルを確認してみましょう。以下に12の項目を用意しました。「はい」の場合にチェックし、ぜひ個数をカウントしてみてください。
☐1:作業している手を止めて、相手の目を見て話を聞いている
☐2:自分の考えを一旦置き、相手の話に共感しようとしている
☐3:自分と違う意見も否定せず聞いている
☐4:相手が話している時に、うなずいたり相づち(非言語)をうっている
☐5:相手の話を最後まで聞き、途中で遮らない
☐6:相手の話を自分の話にすり替えない
☐7:自分の考えを押し付けない
☐8:正論や常識などと相手を論破する癖がない
☐9:違う視点を取り入れようと話を聞いている
☐10:自分が話す時間の割合は、相手より長くならない
☐11:相手のペースに合わせず、白黒つけたり、結論を急かさない
☐12:相手が思考中の沈黙も受け入れられる
いかがでしたか?12個すべてにチェックを入れるのは、意外と難しかったのではないでしょうか。
話す相手が変われば、「はい」の数も変わることがあるかもしれません。ですが、特に上司の立場にいる方であれば、どんな相手とも公平なコミュニケーションを意識したいところです。
チェックが9個以下だった方は、「正しい傾聴力」をさらに高めるため、今後ののびしろとして参考にしていただければと思います。
傾聴の定義とは相手が伝えたいことをそのまま理解すること
傾聴は、相手の言葉だけでなく背景にある思考や感情まで丸ごと受けとめるコミュニケーション です。
- 相手のペースを尊重してうなずく
- 言い換えて確認し、誤解をなくす
- 評価や助言はひとまず脇に置く
こんな振る舞いがそろったとき、話し手は「本当に聞いてくれている」と感じ、初めて本音で語りはじめます。
1on1で使える!会話構成の黄金比:7:2:1 の法則で叶える
1on1で「ちゃんと話せた」「聴いてもらえた」と感じてもらうには、ただ時間を取ればいいわけではありません。
実は、会話の“中身のバランス”が、信頼や安心感、満足度を大きく左右すると言われています。
ここでは、「部下が本音を話してくれた」「前向きな顔で帰ってくれた」そんな1on1を叶えたい方のために、意識したい会話のバランスについてお伝えします。
「聞く」と「聴く」、そして「訊く」をどう使い分けていますか?
傾聴(アクティブリスニング)」と聞くと、
「寄り添って聞くことでしょう? それならもうやってるよ」
そう思った方もいるかもしれません。
でも、実際に“正しい傾聴”ができている上司やリーダーは、意外と多くありません。
人はどうしても、自分の考えとズレているポイントを探してしまう生き物。
だからこそ 「聞く・聴く・訊く」 を意識的に切り替えないと、いつのまにか会話のバランスが崩れてしまうのです。
▼3つの「きく」をサクッと整理
漢字 | 定義 | 目的 | ビジネスにおける具体例 |
聞く | 音や言葉が“耳に入る”状態。受動的。 | 状況把握・情報収集 | 会議での情報共有、プレゼンを聞き流す |
聴く(傾聴) | 相手の感情・意図まで汲み取る能動的行為。 | 共感・信頼構築・本音の引き出し | 部下との1on1、顧客ヒアリング |
訊く | 積極的に質問して情報を取りに行く。 | 認識合わせ・ニーズの深掘り | 納期確認、課題ヒアリング |
表1:「聞く」「聴く」「訊く」の比較
- 「聞く」だけでは情報は流れていく
- 「聴く」で相手は“わかってくれた”と感じる
- 「訊く」で初めて具体的な次の一手が見える
今日からできる “聞く → 聴く” へスイッチするポイント
- 相手の話が終わるまで、頭の中の反論ボタンを押さない
- 要約して返す:「〇〇ということですね?」
- 感情にラベルをつける:「悔しかったんですね」「嬉しかったんですね。」
- 質問で深掘りする:「一番困っているのはどの点ですか?」
この小さな習慣が、組織のレジリエンス(回復力)を底上げし、人材定着と成長という“大きなリターン”を生み出します。
会話構成の黄金比:7:2:1 の法則
人が「満足した」と感じる1on1や対話には、“聴く・訊く時間の配分”と“質の高い問い”のバランスが重要です。以下、心理学やコーチング理論に基づいた【満足度が高まる会話構成の黄金比】をご紹介します。
時間の割合 | 行動 | 目的 |
---|---|---|
70% | 聴く(傾聴) | 相手が話すことで頭と心を整理。「共感・安心・信頼」が生まれる |
20% | 訊く(問いかけ) | 考えや気づきを促す。「掘り下げ・思考の整理」につながる |
10% | 伝える(フィードバックや提案) | 次の行動を一緒に見つける。「視点の変化・背中を押す」効果あり |
各フェーズのポイント
聴く(70%)
- うなずき・沈黙を恐れない
- 「それでどう感じた?」「もっと教えて?」など促しを添える
▶ “話してよかった”という満足はここで生まれます
訊く(20%)
- 「何が一番気になったの?」「その選択をした理由は?」など
▶ 深掘りで自己理解をサポート
💡コツ:「なぜ?」ではなく「何がそう思ったきっかけなの?」と訊くと、防御心を下げられます。
伝える(10%)
- 「今の話、◯◯という強みが見えるね」
- 「それなら、こんな方法もあるかも?」
▶ “気づき+少しの背中押し”で前向きなアクションにつなげます
人が「聴いてもらえた」「自分の話が受け止められた」と感じるときに、満足感・安心感・モチベーションはぐっと高まります。
部下の「本音を引き出したい」と願う方には、この7:2:1の構成はとても効果的です!ぜひ取り入れてみてください。
まとめ
- 若手エンジニアがつまずく”目的の喪失”などの5つの壁がある
- 「正しい傾聴」の効果は組織のレジリエンス(回復力)を高めるなど4つある
- “聞く” “聴く”” 訊く”のバランスが重要
- 1on1など会話構成の黄金比は、7:2:1 の法則
共通して必要なのは「本音を安心して話せる環境」 です。聞くだけのコミュニケーションから、聴いて・訊くコミュニケーションへ――まずこの一歩から、踏み出してみませんか?
本記事でご紹介した傾聴スキルついて、続編記事ではより詳しく解説する予定です。